AFMET

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栄養失調児の減少を目的とした母親対象の栄養と食に関する知識向上プログラムとその実践

2015年度から2017年度までラウテン県南部にあるイリオマール準郡で、味の素「食と健康」国際協力支援プログラムの助成を受けて実施しました。

背景

AFMETは発足当時から2015年までの約15年間、ラウテン県内で活動を展開してきました。拠点のあったフィロロ近辺から徐々に活動範囲を広げ、北部の大半の地域を網羅してきました。しかし、ラウテン県の南部は道も悪く、なかなか活動を広げることができません。
AFMETの現地代表であるジュベンシオさんは、ラウテン県南部こそ医療サービスが行き届かずAFMETの手が必要だとずっと考えてきました。 これまで実施してきた「衛生的なかまど」普及事業が一段落した頃、味の素「食と健康」国際協力プログラムが東ティモールを対象として案件を募集していることを知りました。「もしこの助成事業ができるのであるならば、長年の希望であったラウテン県南部のイリオマール準郡でいまこそ事業展開を図りたい」と現地スタッフの中に強い熱意が湧き上がってきました。
イリオマールへは、ラウテン県の中心であるロスパロスから車で南へ3時間半、約40kmの未舗装路をガタガタと進んでいきます。首都ディリからも遠く、主だった産業もなく住民は農業を中心に細々と生活しています。

イリオマールへの険しい道のり

SISCaよりきめ細かく

SISCaは月に一度村々で行われる保健行政が行う母子保健プログラム(5歳未満の子どもの身体測定、診察、栄養と保健衛生指導)ですが、調査したところイリオマール準郡のSISCaは、郡保健局の人手不足や運営する保健ボランティア(PSF)の技量不足で、十分機能している状態ではないことがわかりました。また、村人の中には家からSISCaの場所までが遠く、参加できない家庭も少なくないことがわかりました。
SISCaや国の定める保健機関に行かないと、新生児に母子手帳が配布されません。配布された母子手帳の数で子どもの数を把握していますので、その子どもはカウントされません。また体重測定や健康診断を受けないので子どもが栄養不足でも、母親がそれに気づかないケースも多々あることもわかりました。
準郡病院長は「SISCaを担当する職員は他の部署も兼任しておりSISCaに同行できないことも多い。PSFにも情報を伝えることができずPSFのスキルアップも望めない。栄養失調児は増える事はないが、減る事もないという状態が続いており、なんとか打開策をみつけたい」と言っていました。
そこで、味の素「食と健康」国際協力プログラムの助成を受け、SISCaよりもさらにきめ細かく母親に寄り添い、イリオマール準郡の栄養失調児の対策を行うことにしました。

CLTSの応用

AFMETが、この15年間の活動の中で気づいたこと。それは、「行動を変えるには、意識を変える」ということです。今まで長年に渡り村人にトイレを作ろう、トイレを使おうと呼びかけてもなかなか成果が現れませんでした。他のNGOが作ったトイレが使われずに放置されていることも珍しくありません。 そこで、2009年からCLTSという手法を用いて、各戸に住民自らの手でトイレを設置する活動を展開してきました。このCLTSは(Community Led Total Sanitation)の略で、「住民主導の全村的環境衛生活動」と訳されます。スタッフが住民に根気強く寄り添い、教えるのではなく住民の気づきを促し、意識を変えて、住民が自主的にトイレを作っていくのを促す活動です。AFMETはこのCLTSをちょっと応用し、住民がトイレを使いやすくするために水利設備の整備という「うまみ」も加えて推進してきました。 今回イリオマールで展開しようとしているプロジェクトはトイレではなく、栄養失調児への対策ですが、この「気づきを促す」方法を活用しようと考えました。

対象地域

対象とした地域は、ラウテン県南部にあるイリオマール準郡です。全部で6つの村があります。カエンリウ村(152世帯)、ティリロロ村(453世帯)フアト村(209世帯)、アイリベレ村(264世帯)イリオマールI村(397世帯)、イリオマール2村(351世帯)です。 イリオマール準郡の5歳未満の子どもの人数は、約1,470名(母子手帳配布部数)。また、身体測定ができた5歳未満の子どもは、989人です。2013年度に実施したSISCaの中で栄養不足であると診断された5歳未満の子は302名。よって、約30%の子どもが栄養不足であると考えられました。
人びとの生活はつつましく、食生活は限られた野菜を炒めるのみというおかずが中心で、調理のレパートリーも限られ、また、肉などのたんぱく質を摂取する機会はごくわずかというのが現状でした。毎日の料理を作り、家族や子ども達の成長をつかさどるのは母親です。母親は子どもが元気に育つのを心から願っています。限られた食材でも栄養があって、おいしい食事を提供するのは料理を作る人の願いです。 そこで、住民、家庭、特に母親の意識変容を促し、栄養や料理の知識を増やしてもらい子ども達の栄養不足を改善していこうと考えました。(世帯数、対象者数は当時の数)

対象とした地域

基礎調査

まず各戸を一軒一軒まわり基礎調査を行いました。そこで5歳未満の子どもを特定します。同時に、配布されているはずの母子手帳から、SISCaに毎月行っているかをチェックしました。 次に、5歳未満の子どもの体重測定を行い、低体重児を確定します。(下の写真のグラフから外れる子どもを特定)
そして、5歳未満の低体重児を持つ母親への総合セミナーを行います。セミナーでは、①ハンドブックや教材を用いて、「意識を変える」工夫もくわえ、栄養の知識を増やしてもらいます。②地域にある季節の食材を利用した調理セミナーを実施し、食材や調理法の紹介も行います。③栄養状態を向上させる食材を確保できる家庭菜園のためのセミナーを実施し、幅広い食材を各家庭で利用できるように促します。④そして、年2回、5歳未満の低体重児の子どもがいる母親が集い、栄養に関する情報交換やセミナーの発表を行うほか、モデルケースとなる家庭を表彰する「母親大会」を開催します。
セミナーはSISCaとあわせて開催しようと当初は考えましたが、それでは家から離れた場所での開催となるケースもあるため、母親が集いやすい集落ごとに行います。
セミナーでは栄養失調児を持つ母親への個別相談も行い、母親の不安を解消していきます。同時に、栄養失調児(低体重児)のいる家庭には、保健ボランティア、栄養課担当者、AFMETスタッフによる家庭訪問を行い、フォローアップをはかります。 さらに、年2回関係者会議を行っていきます。関係者会議には、準郡知事、村長、PSF(保健ボランティア)、保健局、地域の診療所であるヘルスポスト、SISCa担当者、NGOなどが参加し、関係者全員を巻き込んでプロジェクトをフォローしていきました。

当時の母子手帳

家庭菜園と母親大会

このプロジェクトで用意した「うまみ」は家庭菜園と母親大会です。市場に行って買ってこなくても家庭菜園で必要な食材が入手できるようになるでしょう。豆類も導入してタンパク質も摂れるようにしたいと考えていました。
母親大会での表彰がモチベーション(やる気)を高め、また目標となるように設定しました。そしてなにより、子ども達が元気に育ち、毎日の食卓で「おいしい!」という声が聞ける喜びが母親を、家庭を変え子どもの栄養不足を解消していくことを願いました。 このプロジェクトは3年間の計画で行い、年間1~3村を対象としました。

最終年度、母親大会で料理を披露する母親たち

味の素「食と健康」国際協力支援プログラム

味の素グループは、1999年の味の素KK創業90周年を機に味の素「食と健康」国際協力ネットワークプログラム(AINプログラム)を開始しました。「食・栄養」分野の国際協力支援活動で、NGO/NPO、大学、専門家などど連携し、その国の課題に合ったプロジェクトを支援しており、人材の育成、人・情報ネットワークづくりの支援、そして現地活動の支援を行っています。今回、AFMETが申請したのは、この現地活動の支援にあたる「味の素『食と健康』国際協力支援プログラム」です。

AINプログラムをさらに詳しく

当プロジェクトの最終年度には、味の素ファンデーションから栗脇氏が評価のために現地を訪問され、母親大会の様子を視察。母親大会優勝チームに賞品を渡していただきました。

栗脇氏による賞品授与式

イリオマールの地図

イリオマールはGoogle地図で見ると次の場所です。

AINが作成してくださったイリオマールでの活動紹介映像